《 わが名はレッド 》

Red Dock

犯罪組織のブレーンであるレッドは、今は亡き双子の弟と共に、

悲惨な環境の孤児院で育った過去を持つ。

ある警官夫婦の生まれて間もない子供を誘拐し

身代金要求の電話をするが、

お金を受け取る意思は初めからなく、

子供も返さず孤児院の前に置き去りにする。

非業の死を遂げた弟のため、そして破壊された自分の人生のために

気の遠くなるような年月をかけた復讐の幕が上がった…。

この小説の最大の謎は、レッドの動機に他ならない。

乳飲み子を誘拐し、身代金を要求しておきながらそれが目的ではなく、

当然、約束の受け渡し場所にも現れず、

絶望に泣き崩れる母親の姿を遠くから観察していたりする。

最初から子供を返すつもりなど全くなく、

何故か孤児院の前に捨てるのである。

用意周到なレッドのプランは、ここから始まるのだが、

途中、思わぬ邪魔が入る。

女性の死体でオブジェを作るというサイコキラー"ピカソ"がそれ。

"ピカソ"の犯罪描写は、実はそれほど残酷ではない。

"ピカソ"が今まさに行っている神をも恐れぬ所業を、

あーしたこーしたとは、書かれていないのだ。

第三者の言葉で、輪郭だけを浮かび上がらせて、

或いは、捕らえられた被害者たちの環境を書き込んで、

読者に想像させるのである。

これが怖い。

"ピカソ"が現れた事で、プランの軌道修整を余儀なくされたレッドだが、

逆に"ピカソ"を利用し、巻き込むことで事を運ぼうとする。

巧みに操ったかのように見えて、逆に脅されたり、

犯罪者どうしの攻防を展開したりもする。

プラン通りの犯罪を終えてクローズ――ではなく、

(そのまま終わられたら話にならんし)

この辺りはクリスティーの『ゼロ時間へ』を思い出させる趣向。

大金持ちになりたいか?なら、あくせく働かないことだ。

こんな書き出しで始まるこの物語の主人公は、

世に言うところのカタギではなく、立派犯罪組織の一員である。

道徳心や倫理や命の尊さなどで、この物語を推し量ろうとしてはいけない。

そんな既成概念の外枠に位置する所から組み立てたものだろうから。

しかし―――。

レッドの回想で、殺人方法の意味について、また、

20年前に誘拐された赤ん坊ルシールのラストの言葉で、

読者はやっと真実に辿り着く事ができるのだが、

ジグソーパズルの最後の一片がキチンと収まった時、

安堵して――泣きながら

本を閉じては如何だろうか。

(01/07/03)


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